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2009年12月14日 (月)

西欧追随時代の終わり

≪「国家百年の計」を達成して≫

 日露戦争直後の明治三十八年(一九〇五)年に、すでに、七十数年後の現在の大英帝国の没落をはるかに予見し、今日「英国病」として広く知られるに至っている社会病理のメカニズムを鋭く洞察していた一人の驚くべき日本人がいた。彼の名は玉木懿夫(よしお)、号して椿園と言う。中央新聞記者、農商務省実業練習生として英米に留学、中央新聞主筆を務めたのち、実業界入りをした椿園居士は、明治三十八年に「英国衰亡論」なる一著を書いた。この書物には「明治百三十八年日本高等小学校教科書」という風変わりな副題がついており、当時の小学校教科書のスタイルをとっている。

 この書物は次のような緒言で始まっている。「…凡(おおよ)そ邦国の世界歴史に冠たるを欲するものは、復(ま)た他の邦国が其繁栄を槿花一朝の夢と化したるを知らざるべからず、若(も)し帝国にして同一運命に陥るを避けんとならば、国民は小児の時より先人の過を識り、避け得べきは之を避けざるべからず」

 振り返って見ると、明治維新以来百年、日本は「西欧先進国に追いつく」ことを長期国家目標として、近代化、産業化のために懸命な努力を続けてきた。こうした懸命な努力の結果、日本は明治維新から丁度百年後の一九六〇年代末に、「西欧先進国に追いつく」という長期国家目標、ないしは「国家百年の計」を達成してしまったのであった。

だが、「西欧先進国に追いつく」という長期国家目標の達成は、「西欧先進国モデル」がそのままでは日本の未来モデルや模倣の対象にはなり得なくなったことを意味する。追いつき型近代化の過去一世紀の時代にあっては、「西欧先進国モデル」の諸水準と想定されているものから、「日本の現状」水準を引き算し、その差額を山本七平氏の言われる「負のエネルギー」として、「まだ…が足りない」とばかりに模倣と追いつきに拍車をかけることができた。しかし、各種の諸指標が西欧先進国水準に追いつき、あるいは追い越してしまった現在、過去百年間の「西欧追随型」の思考と行動の様式は根底から再検討と転換を迫られるに至っているのである。

 ≪社会病理抱える先進諸国≫  

 しかも、西欧先進国を至近距離でとらえてみると、これらの諸国はすべてが理想的に行っているとはお世辞にも言えないばかりか、むしろ深刻な社会病理を患って混乱し停滞しているという状態にある。そして、これまでの近代化、産業化、福祉国家化のコースを再点検し、その軌道を大胆に転換しないと、西欧先進国と福祉国家は内部崩壊するほかはないという新しい認識がこれら諸国内部においても急速に強まってきているのである。

もしも、日本が今にして「西欧先進国追随型」の古い発想を脱却できず、「まだ福祉が足りない」、「まだ無料化が足りない」などという惰性的態度から脱け切れないならば、日本は無批判に英国病や福祉国家病のあとを追い、西欧社会の病気までをも強烈なスピードで模倣するという喜劇を演ずることとなってしまうであろう。今、日本にとって大切なことは、過去百年間の西欧模倣時代が終わったことをはっきりと自覚し、みずからの頭で自主的にものを考え、判断し、みずからの足で日本社会の歴史的、文化的基盤の上にしっかりと立つことである。

 ≪福祉国家が活力低下させる≫ 

 福祉国家は膨大な財源を必要とする。この膨大な財源を確保するために、国民所得に対する租税負担率は英国で三六・九%、スウェーデンで四四・六%と実に日本(一八・二%)の二倍以上という驚異的な高率に達し、国民の勤労意欲、創意工夫の意欲、社会全体の活力を著しく低下させてしまっている。

 日本社会党は「流した汗がむくわれる政治を」という美しいスローガンを掲げているが、現在スウェーデンでベストセラーになっているリンドグレン女史の福祉国家風刺物語「ポンプリポッサ」は、福祉国家スウェーデンが、努力した者、汗を流した者がむくわれず、怠惰で依頼心の強い者だけが大切にされる奇妙な国になってしまったと痛烈に批判を加えているのである。「働けば働くほど税金で取られてしまいます。そこで、ポンプリポッサは童話を書くのを止め、生活保護で暮らすことになりました」とこの物語は述べている。

勤労意欲が低下し、創意工夫意欲が無くなり、他方で、怠惰で、依存心が強く、医療、住宅、教育等すべての福祉サービスを公共的負担に依存しようとする国民が増加してくれば、その財政的帰結は火を見るよりも明らかであろう。それは国家予算の歳入を減少させ、他方、歳出を際限なく増加させていくのであるから、国家や公共機関は慢性的な赤字の累積で悩まされるようになり、財政的に破産してしまうことになる。にもかかわらず、指導者たちも国民も誰一人真剣に赤字のことを心配することなく、耳の痛くなることをあえて言おうとせず、赤字に対して不感症となっていくのである。例えば、英国の主要国有企業を見てみるがよい。石炭公団、電力公団、ガス公社、郵政公社、国鉄などはすべて軒並みに赤字状態で手のつけられない状態にある。

≪効率のよい政府を志向せよ≫

 英国病の誤ちを繰り返さないために、われわれはいま少なくとも次の諸点について国民的合意を形成してゆく新しい努力を、勇気をもって開始しなければならない。それは、(1)与野党が超党派で財政健全化のための責任ある長期プログラムを作成し、国家予算、地方財政、各種公共機関の赤字解消のための総力戦を開始すること、(2)財政の肥大化傾向に終止符を打ち、各種の事業を最大限民間の創意に委ね、「ビッグ・ガバメント」ではなく、安上がりで、効率のよい政府を志向すること、租税負担率はこれ以上高めないよう努力すること、(3)行き過ぎた依存心と甘えを助長する政策を改め、自立精神を尊重し、受益者負担の原則を貫くこと、課税最低限の引き上げは止め、全ての国民から最低限の税を厳粛な義務として徴収すること、(4)活力ある、多様な中産階層の安定に最大の政策的力点を置くとともに、誤れる悪平等主義を断固排すること、(5)日本社会・文化の特質を十分に配慮した独創的、制度的工夫を行うよう努力すること、などである。国会における来年度予算案の審議を通じて、こうした“英国病を回避するための総合プログラム”が真剣に論議されるようになることを私は強く希望しておきたいと思う。(学習院大教授・香山健一:産経ニュース1972.1.28)

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