【産経抄】5月30日
閣僚の「罷免」は、憲法68条で首相に与えられた権利である。しかし実際に罷免された大臣は戦後、4人しかいなかった。ほとんどは自ら辞任するからだろう。その中で、多くの人の記憶に残っているのは中曽根内閣の藤尾正行文相に違いない。
▼昭和61年入閣して間もなく、月刊誌のインタビューで東京裁判や靖国神社問題など歴史認識で持論を披瀝(ひれき)した。このうち韓国併合について「韓国側にもいくらかの責任はある」などと述べた。これが報道されると、韓国は猛烈に抗議、マスコミのバッシングも始まった。
▼中曽根首相の訪韓の直前だっただけに、政府や自民党はあわてた。実力者たちが文相を辞任するよう説得したが、藤尾氏は「辞任は信念を曲げることになる」と、一歩も引かない。最後は首相が「それなら辞めてもらいましょう」と罷免に踏み切ったのである。
▼藤尾氏は自民党でも一匹狼的なところがあり、罷免が政局を混乱させることはなかった。しかし後世に禍根を残したのも事実だ。つまり、閣僚や政府関係者は、自らの歴史観を語ってはならないというタブーができた。自由な歴史論議を政府が封じ込めてしまったのだ。
▼5人目の罷免閣僚となった福島瑞穂・社民党党首も「頑固さ」では藤尾氏にひけをとらなかった。だがどうにも隔靴掻痒(かっかそうよう)である。普天間飛行場を沖縄県内に移設する政府方針に反対だといっても、それなら日本の安全をどう守るのか、それが少しも伝わってこないからだ。
▼そもそも民主党と社民党とが連立を組んだときも、安全保障などの議論はあいまいだった。これでは破綻(はたん)もやむをえない。藤尾氏の場合もそうだったが、肝心の点の議論抜きで、表面を取り繕うような政治はもはや限界にきている。(産経ニュース2010.5.30)
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