初の「全閣僚、靖国参拝せず」民主党政権下で異例の8・15
65回目の「終戦の日」である15日は、菅内閣の自粛方針の下、菅直人首相も閣僚もその他の政務3役も1人も靖国神社に参拝しない、政府に記録が残る昭和60年以降初めての異例の日となった。「戦没者の鎮魂は国家の基本」(故藤波孝生元官房長官)という大原則は置き去りにされ、靖国参拝に反発する近隣諸国ばかりに迎合した結果だ。この日の靖国は、こうした民主党政権の姿勢や政策に対する懸念や憤りの声で包まれた。(阿比留瑠比)
■どこの国の国益か
「痛恨の菅首相謝罪談話」「菅『靖国不参拝』の妄論」「民主党の本当の姿を知っていますか?」…。靖国神社へと向かう九段下の坂では、いくつもの民間団体がビラや小冊子を配っていた。多くは民主党政権の外交姿勢や政策を批判する内容だった。
「菅首相と閣僚はどこの国の閣僚で、どこの国の国益を図って行動しているのか。どんなに糾弾しても糾弾し足りない」
神社境内で開かれた戦没者追悼中央国民集会で、日本会議の三好達会長(元最高裁長官)はこう訴えた。民主党が進める永住外国人への地方参政権付与や選択的夫婦別姓などの政策阻止を主張し、10日発表の首相談話についても「北朝鮮がわが国に対する理不尽な要求をする格好の材料を与えた」と批判した。
境内には、首相と仙谷由人官房長官、岡田克也外相を批判する写真も地面に張り付けられていた。特定政党・政治家が名指しでこうまで批判されるのは、街宣車が行き交う15日の靖国でも珍しい光景だ。
ただ、政府の英霊鎮魂への無関心ぶりが、逆に国民の危機感を高めた部分もありそうだ。神社によると、この日の参拝客は約16万6千人で、一昨年(福田内閣)の約15万2千人、昨年(麻生内閣)の約15万6千人を大きく上回った。
■首相のA級戦犯論
民主党政権で靖国が軽んじられることは、予想されていたことだった。
首相は野党時代から、ときの首相や閣僚の靖国参拝に反対しており、自身の首相就任時にも「在任中は靖国に参拝しない」と明言した。6月15日の参院本会議では、その理由をこう述べた。
「靖国神社はA級戦犯が合(ごう)祀(し)されているといった問題などから、首相や閣僚が公式参拝をすることには問題があると考えている」
この首相の考え方は、菅内閣ではおおむね共有されている。仙谷氏は10日の記者会見で「閣僚は公式に参拝することは自粛しよう、差し控えるべきだというのは、従来の日本政府の考え方だ」と強調した。
一方、民主党内で「保守派」とされる野田佳彦財務相はもともと、首相らとは別の意見だった。平成17年10月に出した質問主意書で次のように主張していた。
「すべての『戦犯』の名誉は法的に回復されている。『A級戦犯』と呼ばれた人たちは戦争犯罪人ではない。戦争犯罪人が合祀されていることを理由に首相の参拝に反対する論理はすでに破(は)綻(たん)している」
野田氏は首相談話にも当初反対していたが、これも結局、仙谷氏に押し切られている。党内の保守派の立場の弱さがうかがえる。
この日は、超党派の「みんなで靖国神社に参拝する国会議員の会」メンバーをはじめ約50人の国会議員が靖国に参拝した。
安倍晋三元首相は閣僚の不参拝について、「首相や官房長官が方針として決めたのであれば、信教の自由上、問題がある」と指摘。石原慎太郎東京都知事は「英霊が浮かばれない」と嘆いた。
(産経ニュース2010.8.15)
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