【主張】盆の帰省 「元気かい」で絆強めたい
日本人が一年で最も強く「ふるさと」を意識するお盆(月遅れ盆)を迎え、既に故郷に帰省している人も多いことだろう。明治安田生命の調べでは、この夏休みに「帰省する」と答えた人は約4割に上っていた。
唱歌「故郷(ふるさと)」の歌い出しに「兎(うさぎ)追いしかの山、小鮒(こぶな)釣りしかの川」とあるように、山や川、田や畑などの懐かしい風景は、私たちの心をふるさとへとせきたてる。
同じ唱歌の2番には「如何(いか)にいます父(ちち)母(はは)、恙(つつが)なしや友がき」と、父母や友人らの息災を気にかける詞が出てくる。もともと帰省の「省」には「親の機嫌を尋ねる」といった意味もあり、「帰省」とは本来、「故郷に帰って、父母の安否を問うこと」(広辞苑)だと分かる。ふるさとは、家族の絆(きずな)を確かめ合う地でもあるのだ。
国民的映画と評された『男はつらいよ』シリーズの主人公、フーテンの寅さんは、行方定めぬ放浪生活を送りながらも、折にふれてふるさとの柴又を思い、「や、元気かい」と言いながらふらっと帰ってくる。互いの無事を喜び合って寅さんや家族、近所の人らに笑みがはじける。寅さん人気がいまだ衰えないのも、こんな地縁血縁の温かさを私たちに思い起こさせてくれるからに違いない。
いま各地で、高齢者の所在不明が次々と明らかになり、大きな社会問題となっている。多くの人が家族や地域の「縁」の枠外に置かれているという現実に、地縁血縁もここまで希薄化したかと、寒々しい思いに駆られる。
戦後の高度成長時代以降、核家族化の進行や産業構造の変化によって、父祖の地を離れて暮らす人も大幅に増えた。それでもある時期までは、日本人の精神基盤のなかで「縁」や「絆」は重要な部分を占めていたはずだ。ふるさとへの愛着や祖霊に対する崇敬の念、肉親を大切に思う気持ちも失われることはなかった。
それが昨今は、戦後教育の行き過ぎた「個」の尊重などもあり、若い世代を中心に目には見えない「縁」や「絆」への思慕が薄れつつある。このままでは日本人の魂も空洞化しかねない。
盆の帰省時だけでなく、居住している地域でも日常的に誰もが「や、元気かい」と尋ね合えるような社会に戻したい。日本人の心のふるさとにいま一度、「帰省」してみようではないか。(産経ニュース2010.8.14)
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