【産経抄】9月14日
「後藤のような自尊心に満ちた相手に対しては礼儀ある態度をとり、おなじ日本人でも哀れみを乞(こ)うような交渉相手には悪鬼羅刹(らせつ)のような態度をとるらしい」。幕末の日本を訪れたイギリス公使パークスを、司馬遼太郎が『竜馬がゆく』のなかで評している。
▼特に後段部分は、現在の中国政府にこそあてはまる。沖縄・尖閣諸島付近で、海上保安庁が違法操業の疑いのある中国漁船の船長を逮捕した事件をめぐり、中国の非礼は常軌を逸している。
▼外国の漁船とみれば、銃撃も辞さない国があるなか、今回の日本の処置は、あくまで法に則(のっと)ったものだ。それに対して事件発生から6日間で5回も丹羽宇一郎駐中国大使に抗議し、戴秉国(たいへいこく)国務委員からの呼び出しは、12日午前0時の真夜中だった。
▼ところで後藤とは、土佐藩の重臣、後藤象二郎のことだ。イギリス水兵が殺された事件で、土佐藩士の仕業と決めつけたパークスに一歩もひかず、後に意気投合した、と通訳を務めたアーネスト・サトウが書き残している。
▼サトウが、後藤より優れた人物と評価した西郷隆盛の逸話は前にも紹介した。西郷は、机に足をのせたまま人と話すパークスの態度をあるときまねて、お互いに無礼をやめようと諭した。それに倣って、日本も中国の駐日大使を夜中に呼び出せ、とは言わない。かといって官房長官の「遺憾」の一言ですませていい問題ではない。
▼中国は、民主党代表選の混乱に乗ずるというより、今日どちらの候補者が勝利を収めても、与(くみ)しやすしとみているのではないか。確かに自らを幕末の志士になぞらえるのには熱心だが、欧米列強の脅威に立ち向かったかれらの心意気は、2人にはとんと見当たらない。
(産経ニュース2010.9.14)
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