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2011年1月12日 (水)

【正論】年頭にあたり 評論家・西尾幹二 中国恐怖症が日本の元気を奪う

 これからの日本は中国を抜きにしては考えられず、特に経済的にそうだと、マスコミは尖閣・中国漁船衝突後も言い続けている。

 ◆対中輸出入はGDPの2%台

 経済評論家の三橋貴明氏から2009年度の次の数字を教えてもらった。中国と香港への日本からの輸出額は1415億ドルで、日本の国内総生産(GDP)約5兆ドルの2・8%にすぎない。日本の輸入額は1236億ドルで、2・4%ほどである。微々たるものではないか。仮に輸出が全部止まってもGDPが2%減る程度だ。高度技術の部品や資本財が日本から行かなくなると、困るのは中国側である。これからの日本は中国抜きでもさして困らないではないか。

 それなのに、なぜか日本のマスコミは中国の影におびえている。俺(おれ)たちに逆らうと大変だぞ、と独裁国家から催眠術にかけられている。中国を恐れる心理が日本から元気を奪っている。日本のGDPが世界3位に転落すると分かってにわかに自らを経済大国と言うのを止め、日本が元気でなくなったしるしの一つとなっている。

 だが、これはバカげている。日本の10倍の人口の国が日本と競り合っていることは圧倒的日本優位の証明だからだけではない。今の中国人は人も住まない空マンションをどんどん造り、人の通らない砂漠にどんどん道路を造り、犯罪が多いから多分刑務所もどんどん造り、GDPを増大させている。GDPとはそんなものである。

 ◆経済大国3位転落気にするな

 日本のGDPが下がりだしたのは、橋本龍太郎政権より後、公共投資を毎年2、3兆円ずつ減らし続け、14年経過したことが主たる原因である。効果的な支出を再び増やせば、GDPはたちまち元に戻る。子供手当を止め、その分をいま真に必要な国土開発、港湾の深耕化、外環道路の建設、橋梁(きょうりょう)や坑道の補修、ハブ空港の整備(羽田・成田間の超特急)、農業企業化の大型展開など、再生産につながる事業をやれば、GDPで再び世界2位に立ち返るだろう。

 わが国は国力を落としているといわれるが、そんなことはない。中国に比べ、国民の活力にかげりが見えているのでもない。拡大を必要とするときに、縮小に向けて旗を振る指導者の方針が間違っていて、国民が理由のない敗北心理に陥っているのである。

 しかし、いくらそう言っても、中国を恐れる心理が消えないのはなぜなのか。中国は5千年の歴史を持つアジア文明の中心的大国であり、日本はそこから文化の原理を受け入れてきた「周辺文明圏」に属し、背伸びしても及ばない、という無知な宿命論が日本人から元気を奪っているからだ。ある政府要人は日本はもともと「属国」であったと口走る始末である。日本がかつて優位だったのはわずかに経済だけである。それがいま優位性を失うなら、もはや何から何まで勝ち目はない。この思い込みが、中国をただ漫然と恐れる強迫観念の根っこにある。

 しかし、これは歴史認識の完全な間違いである。正しい歴史は次のように考えるべきである。

 ◆古代中国幕閉じ、日欧が勃興

 古代中国は確かに、古代ローマに匹敵し、周辺諸国に文字、法観念、高度宗教を与えた。だが、古代両文明はそこでいったん幕を閉じ、日本と新羅、ゲルマン語族が勃興(ぼっこう)する地球の文明史の第二幕が開いたと考えるべきである。漢、唐帝国とローマ帝国は没落し周辺に記憶と残像を与え続けたが、もはや二度と普遍文明の溌剌(はつらつ)たる輝きを取り戻すことはなかった。

 ことに、東アジアではモンゴルが登場し、世界史的規模の帝国を築き、中国は人種的に混交し、社会構造を変質させた。東洋史の碩学(せきがく)、岡田英弘氏によると、漢民族を中心とした中国民族史というものの存在は疑わしく、治乱興亡の転変の中で「漢人」の正体などは幻と化している。

 現代のギリシャ国家が壮麗な古代ギリシャ文明と何の関係もないほどみすぼらしいように、現代の中国も古代中華帝国の末裔(まつえい)とはほとんど言い難い。血塗られた内乱と荒涼たる破壊の歴史が中国史の正体である。戦争に負ければ匪賊(ひぞく)になり、勝てば軍閥になるのが大陸の常道で、最強の軍閥が皇帝になった。現代の“毛沢東王朝”も、その一つである。

 ユーラシア大陸の東西の端、日本列島とヨーロッパはモンゴルの攻略を免れ、15、16世紀に海洋の時代を迎えて、近代の狼煙(のろし)を上げた。江戸時代は17世紀のウェストファリア体制(主権国家体制)にほぼ匹敵する。日本とヨーロッパには精神の秩序があり、明治維新で日本がヨーロッパ文明をあっという間に受け入れたのは、準備ができていたからである。

 中国が5千年の歴史を持つ文明の大国だという、ゆえなき強迫観念を、われわれは捨てよう。恐れる必要はない。福沢諭吉のひそみに倣って、非文明の隣人としてズバッと切り捨てる明快さを持たなくてはいけない。(産経ニュース2011.1.12)

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