『悪名の棺 笹川良一伝』(工藤美代子著)豪快な、正義感の強い男
友人が日本船舶振興会の理事長をしていたとき、女子の卒業生を推薦するのを頼まれたことがあった。ところが「笹川さんのところですか」とみんな辞退するのである。当時、笹川良一という名は、ファシスト、右翼、政界黒幕、A級戦犯のくせにバクチの大金で自己宣伝する男などなどの「悪名」がそれほど日本中に浸透していたのである。
「ムッソリーニに会いに行った男」と言えばファシストと考えられやすいが、その時イタリアに乗って行った飛行機は山本五十六が世話した海軍の渡洋爆撃機だと知れば、話は別に見えてくる。「バクチの大金を使う男」は、戦前すでに自分の飛行場と飛行機20機を持ち、それを後に軍に献納していることを知れば、戦後「バクチの大金」が、一度も法に触れることなく使われていたことも納得がいく。彼は個人的に大富豪であったので、自分の金を使っているところも、競艇・バクチの金と世間では思ったのである。
A級戦犯容疑者と言われた彼は、東條戦時内閣の時代に、非推薦候補として衆院議員に当選している。当時の「非推薦」ということは東條内閣が「好ましくない」と判断した男ということだ。
東京裁判研究家の粟屋憲太郎立教大教授は、「笹川は『カネがすべて』という戦後日本人の考え方を作った人ではないか」と言った。笹川は占領軍の不当な裁判の犠牲になった人たちやその遺族を国が助けない時に私財とエネルギーの限りを尽くして精神的・物質的に援助した。その時に被告や遺族などから寄せられた厖大(ぼうだい)な感謝の手紙は伊藤隆東大名誉教授の手によって編纂(へんさん)出版され、本書にいくつか引用されている。これが「金がすべて」の男のやることか。
一方、笹川良一は、「下半身の人格は別」という考えを実践した明治の男でもあった。そのプライベートなところも、工藤美代子さんは実によく丁寧に描いている。特に最後の数年の私生活は、今回初めて明らかにされたのではないか。このように豪快な、正義感の強い、スケールの大きい男が日本からいなくなったことがつくづくさびしい。(幻冬舎・1785円)
評・渡部昇一(上智大学名誉教授)
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