【主張】大震災と原発爆発 国家の「機能不全」克服を
■緊急事態への対処法整備急げ
これでもか、これでもかと未曽有の国難が押し寄せてくる。この国家の非常事態に対し、日本が的確に対処する仕組みを持たないことがいま、問題解決を遅らせ、事態を一段と深刻化させている。
菅直人政権の右往左往が、混乱に拍車をかけている。
現行法の枠内で効果を最大限発揮する措置が求められるのはいうまでもないが、一方で非常事態を乗り切るための法的整備を即刻かつ党派を超えて行うことに日本の生存がかかっている。
具体的には、政府に非常事態宣言を出すよう勧告する決議を国会が採択することを求めたい。
◆「非常事態」宣言決議を
東日本の太平洋岸の各地で約41万人が身を寄せる避難所の実態が、非常事態への対応の問題点を浮き彫りにしている。水や食料、燃料、持病を持つお年寄りの薬も足りない。数に限りがある毛布を分け合って寒さに震え、大人用のおむつをつける赤ん坊もいる。
なぜこうなったのか。
物資の輸送を阻んだ道路渋滞はすでに解消されているのに、ガソリンが尽きたためだ。避難所に物資を運ぶトラックにも燃料はない。病人が出ても救急車は出動できず、医師も看護師も移動ができない。どこで給油可能かという情報もない。
その一方、計画停電によりマイカー通勤に切り替えた人々で、都心では道路渋滞が激しくなっている。どちらが本当にガソリンを必要としているのか。誰が考えても分かりそうなものだ。大切なのは、一刻も早く西日本を含む被災地以外からガソリンを強制的に供給することである。
こうした非常事態にあたり、国家として強制措置を含めた対応に背を向けてきたのが戦後の日本である。緊急事態への国の対処について、憲法は参院の緊急集会以外、具体的に記していない。
武力攻撃やテロによる災害から国民の生命・財産を守る国民保護法は、「緊急対処事態」に対応するための措置を盛り込んでいるが、国民の協力について「強制にわたることがあってはならない」としている。
現行の災害対策基本法も、緊急災害対策本部長を務める首相に関係省庁や自治体の長に直接、指示を出す権限を与えている。交通規制で支障となる車両があれば、警察官や自衛官が排除できるなどの措置が盛り込まれているが、ほとんど活用されていない。
同法では、自治体は救助に必要な物資の生産や集荷、輸送などを行う業者に対し、強制措置を取ることができる。しかし、県をまたぐ広域災害の場合は国が司令塔となって事業者に指示し、強制措置を発動する法体系になっていない。現状はガソリンなどを優先的に被災地へ送ることも、業者の判断に任せられているという。
原子力発電所についても、事業者である電力会社が一義的に対応することになっており、国が責任を取る態勢になっていない。
コメなどについて、食糧法(主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律)は大幅な供給不足に陥った場合の緊急措置として、農水相が生産・販売業者に出荷地域や数量、価格などを指定できると定めている。しかし、実際に発動されたことはない。
◆公共のため強制措置も
民主党が想起すべきは、平成16年、自民、公明両党との間で、大規模自然災害への対応も含む緊急事態基本法の骨子案に合意したことだ。骨子案は、国の責務として「国民の生命、身体及び財産の保護に万全の措置が講じられる」点を明確にし、首相の迅速な意思決定を確保する必要性を指摘するものだった。法制定には至らなかったが、共通の議論の土俵は事実上構築されている。
求められているのは、国家の危機を克服する法整備である。具体的には、被災者のための施設や食品などの物資提供を事業者に求め、拒否すれば強制的に提供させるなど、国民保護法の規定を準用すべきだ。
与野党は統一地方選延期などの震災対応で協議を重ねている。非常事態乗り切り決議を含め、国難を打開する歩み寄りが必要だ。
天皇陛下が「皆が相携え、いたわり合って、この不幸な時期を乗り越えることを願っています」と国民向けのビデオでお言葉を述べられた。国家と国民の力を今こそ結集したい。
(産経ニュース2011.3.17)
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