『リーダーシップ 胆力と大局観』(山内昌之)
「奇兵隊内閣」を自称した首相がいた。自らの離党を坂本龍馬の脱藩にたとえた野党党首もいた。歴史小説を好む政治家は多いが、安直な志士気取りは、かえって歴史的教養のなさを露呈させる。
現在生じている事象も、歴史を研究すれば、必ず過去に似たような事例が存在する。古今東西の史書に通じた歴史家である著者は、歴史の中のリーダー像を論じつつ、現代日本の政治家が歴史の素養に乏しいことを危ぶむ。
「英米の政治エリートは歴史が教養のベースにあります。フランスなら哲学。日本の政治家はいずれもなく、強いて言えばテクノクラート(実務官僚)的な法解釈。追いつけ追い越せの時代ならそれで良かったかもしれませんが、これからは自分自身が歴史をどう見るか、どう歴史を作っていくかという意識がない政治家は、淘汰(とうた)される」
リーダーの条件は、つきつめると次の3点に集約される。修羅場に動じない胆力、人材を引きつけ、使いこなす人心掌握力。そして、局面全体を見通し、物事に正しく優先順位をつける総合力だ。
総合力は、大局観とも言い換えられる。それは、歴史学者が必要とする能力とも重なるという。「歴史を書くということは、微細を論じつつも、どこかでマクロの視点を持たなければならない。つまり大局観が必要で、しかも言語による説明が求められる。これは、政治家にも通じる」
歴史の素養を身につけるには、歴史小説では不十分だ。日本の政治家が読むべき史書として、3冊を挙げる。
「まず北畠親房の『神皇正統記(じんのうしょうとうき)』。南朝の政治家が自ら書き、自己批判も見られるずば抜けた歴史書です。加えて、権力闘争に満ちた鎌倉幕府の統治の書である『吾妻鏡(あづまかがみ)』。支配階層が、自分の体制にどう正統性を与えようとしたかという点で、新井白石の『読史余論(とくしよろん)』もいい。現代語訳でもいいから、原典に当たることです。古典は読むこと自体が知的訓練になりますから」
(産経ニュース2011.10.30)
« 今日は「中島みゆき」の誕生日ですね! | トップページ | 人物探訪:井上毅 ~ 有徳国家をめざして(下) »
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- 「違和感」の日本史(本郷和人著)(2021.04.13)
- 「アメリカ」の終わり “忘れられたアメリカ人"のこころの声を聞け(山中泉著)(2021.04.07)
- 安倍家の素顔 - 安倍家長男が語る家族の日常 -(安倍寛信著)(2021.04.03)
- 事業承継の羅針盤 あの優良企業はなぜ対策を誤ったのか?(太田久也著)(2021.03.26)
- バイデン大統領が世界を破滅させる 親中に傾く米国と日本に迫る危機(宮崎正弘著)(2021.03.20)
「経済・政治・国際」カテゴリの記事
- 「アメリカ」の終わり “忘れられたアメリカ人"のこころの声を聞け(山中泉著)(2021.04.07)
- バイデン大統領が世界を破滅させる 親中に傾く米国と日本に迫る危機(宮崎正弘著)(2021.03.20)
- ウイルスが変えた世界の構造(副島隆彦・佐藤優共著)(2021.03.15)
- 東條英機 「独裁者」を演じた男(一ノ瀬俊也著)(2021.02.03)
- 身捨つるほどの祖国はありや(牛島信著)(2021.01.25)
「歴史」カテゴリの記事
- 「違和感」の日本史(本郷和人著)(2021.04.13)
- 安倍家の素顔 - 安倍家長男が語る家族の日常 -(安倍寛信著)(2021.04.03)
- バイデン大統領が世界を破滅させる 親中に傾く米国と日本に迫る危機(宮崎正弘著)(2021.03.20)
- ウイルスが変えた世界の構造(副島隆彦・佐藤優共著)(2021.03.15)
- ひな祭り(2021.03.03)
「日本・日本人」カテゴリの記事
- 「違和感」の日本史(本郷和人著)(2021.04.13)
- 神田川の桜(2021.04.02)
- 小平グリーンロードの桜(2021.03.30)
- ふたたび桜(2021.03.25)
- 小平グリーンロードの桜(2021.03.24)
コメント