【産経抄】5月16日
経済白書が「もはや戦後ではない」という有名な言葉をはいたのは昭和31年のことである。朝鮮戦争の特需などで経済が急速に回復し、この年から「神武景気」が始まる。それを受けての「宣言」だった。だが一方で昭和47年こそ「戦後の終わり」だとする見方もある。
▼この年の2月に戦後27年、ジャングルに潜んでいた元陸軍伍長、横井庄一さんが帰ってきた。戦後の左翼運動の行き着いた先を示すような連合赤軍事件やテルアビブ事件が起きた。5月に沖縄が復帰し、9月には中国との国交正常化がなったからだ。
▼特に沖縄返還をめぐっては佐藤栄作首相が「祖国復帰が実現しない限り戦後は終わっていない」と述べ、多くの共感を呼んだ。しかし復帰は同時に、平和に対する幻想を国民に抱かせた。戦後の冷戦構造が去り、米軍がいなくとも日本の平和は守れるという勘違いだった。
▼このため沖縄の米軍基地について常に「本土の犠牲」とか「負担」という声が聞かれ、邪魔者扱いにもされてきた。だが復帰から40年たった今、日本の守りはむしろ厳しさを増す一方だ。とりわけ沖縄の一部、尖閣諸島への中国の攻勢は日に日に強くなっている。
▼野田佳彦首相と温家宝首相との尖閣をめぐる応酬の中で、温首相は「核心的利益」という言葉まで使ったという。もはや「尖閣はよこせ」という恫喝(どうかつ)にも聞こえる。そうした危機感抜きで米軍の駐留を論じるのはあまりに無責任というものだ。
▼佐藤元首相の復帰にかけた思いは痛いほどわかる。だが、憲法改正を急ぐなど、戦後体制の枠組みから脱却しないことにはその沖縄を守ることも難しい。胸を張って「戦後は終わった」とはいまだに言えないのである。
(産経ニュース2012.5.16)
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