【産経抄】6月13日
「強盗が『入るぞ』と宣言しているのに戸締まりをしない国がどこにあるのか」。一昨日、国会に参考人として出席した石原慎太郎東京都知事の言葉である。都が購入を宣言している尖閣諸島をめぐり、中国から島を守る意志を見せない政府を一喝したのだ。
▼似たような例えを読んだことがある。と思ったら109年前の明治36年、ジャーナリストの黒岩涙香(るいこう)が、発行する『万朝報(よろずちょうほう)』紙に書いた社説だった。満州から朝鮮半島にまで手を伸ばすロシアと戦うべきか否か、国論が割れていた当時のことである。
▼『万朝報』ではそれまで内村鑑三らが非戦論を展開していた。それが開戦論に転じ批判を浴びた。涙香はこんなふうに反論する。「賊が夫婦げんかに乗じて家に押し入り、財産を奪おうとした。気付いた夫婦は争いをやめ、心を一にして賊と戦う。これを戦いを好むというのか」。
▼ロシアが日本まで窺(うかが)おうとしている以上、国が一つになり戦うのは当然だろうというのだ。東シナ海から南シナ海にまで覇権を伸ばそうとする現代中国は当時のロシアそっくりだ。石原氏の口から涙香と同じような例え話が出てきたのも当然かもしれない。
▼しかし1世紀前の場合、その「警告」は同時代の人々に受け入れられた。内村はあくまで非戦を主張したが、国民挙げて開戦と決まったらあえてそれ以上反対はしない、と述べている。それほどロシアに対する危機感は国民に共通していた。
▼対照的に石原氏の「警告」にも政府はどこ吹く風だ。それどころか、駐中国大使は都の尖閣購入を「日中関係に深刻な危機をもたらす」と批判した。まるで「戸締まりなどしたら強盗さんが気を悪くする」と言っているみたいだ。
(産経ニュース2012.6.13)
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