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2014年9月26日 (金)

【書評】日本が二度と立ち上がれないようにアメリカが占領期に行ったこと(高橋史朗著)

■作られた対日誤解や偏見

 共産党の国際機関であるコミンテルンの歴史観は日清・日露戦争も含めて日本の近代そのものを侵略戦争の歴史だと考えていた。アメリカは戦後、そんな共産主義者を利用して占領政策を実施した。日教組をつくったのもその一つだが、ソ連のコミンテルン史観とアメリカの「太平洋戦争」史観が合体し、戦後日本の歴史教育の基本となった。日本人はいわば「義眼」をはめられ、それ以来70年も外せずに今日に至っている、と著者は言い、次々と気づかないできた事例を挙げている。

 原爆投下に対しトルーマン大統領は「獣(けもの)と接するときは相手を獣として扱わねばならない」と言ったそうだ。占領軍は欧米の帝国主義への批判は許さず、「日本人は生まれつき攻撃的・侵略的・軍国主義的な国民」であると決めつけた。たくさんの日本語の使用を禁じた。「国体」や「皇国の道」の禁止は知られているが、「国家」「国民」「わが国」が禁じられていたとは私も知らなかった。「わが国」の「わが」は愛国心に繋(つな)がるからだそうである。

臆病なまでに占領軍に気がねし自主規制をしたケースとして「君が代」を音楽の教科書に載せなかった文部省の例がある。敗戦の衝撃の心理現象と見るが、アメリカでは日本人の民族的性格をフロイト流に病理学的に解釈したルース・ベネディクト『菊と刀』にみられる誤解と偏見が戦中にすでに設定されていた。日本は女性蔑視の国とか、弱者虐待の国とかいう思い込みが先にあり、それが「伝統的攻撃性」を生んだと勝手な解釈に及んでいた。本書が、ジェフリー・ゴーラーという社会人類学者の日本人の国民性の矛盾分析、乳幼児期の厳しい用便の躾(しつけ)(トイレット・トレーニング)に矛盾の原因があるとする、首を傾(かし)げたくなるような分析を取り上げ、ベネディクトへの影響を論究しているのは新発見である。

 著者は本書を中国に起こった『菊と刀』ブームから書き始めている。欧米人の対日誤解や偏見は中国に受け継がれている。否、中国人は受け継ぎたがっている。そこに現代への本書の問いかけがある。(高橋史朗著/致知出版社・本体1800円+税)

 評・西尾幹二(評論家)

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