「14年前は62キロの小さい少年がここまで来るとは、誰も想像しなかったと思う」。大鵬の持つ史上最多32度優勝。角界に燦然(さんぜん)と輝く偉大な記録へついに肩を並べた。花道から引き揚げるとき、涙をこらえきれなかった。
それほどまでに思い入れのある記録だった。モンゴルから来た白鵬をいつもかわいがってくれた元横綱大鵬の納谷幸喜氏は「角界の父」。生前に教わったのが最高位としての覚悟だ。
7年前の横綱昇進時。「横綱になったときには引退することを考えろ」と言われ「怖かった」。年齢を重ねれば、力の衰えは避けられない。追ってくる後輩もいる。綱を張る者は勝てなくなれば、自ら土俵を去るしかないことを再認識した。贈られた言葉は今でも胸に刻まれている。
昨年1月の初場所中。納谷氏が亡くなる2日前だった。見舞いに訪れ「優勝32回に一つでも二つでも近づけるように精進します」と話しかけると、「しっかりやれよ」と言われた。交わした“約束”が大記録を目指す背中を押してくれた。
相撲の取り口は泰然自若ぶりが目立つが、心の内は違う。優勝回数で大台に乗せようとしていた頃に「いやあ、怖いね。簡単に30回優勝したいとか。優勝とか1位になるのは大変だよ」と漏らした。
最高位に就いたときからずっと向き合ってきた“恐怖心”は、より強くなるための原動力ともなった。恐れをかき消すために稽古場で四股を踏み、汗を流した。
目指してきた高みに到達し「角界の父に恩返しができたかな」。ほっとした顔だった。
(産経ニュース2014.11.23)

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朝青龍というライバルがいれば、もっと強くなれた
のではないか。
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